昔の普通の経験では、高値になると『売り』だったんです。
いまはカネ余りですし、新人類は「買竺なわけですよ」上がるから買う、買うから上がる。
M鉄鋼の株買い占めで誠備が活躍していたとき、〔東証売買部長として〕かかわりましたが、彼らはほかにもいろいろやってまして、株価はどんどん上がっていく一方なんだという論理をいってました。
だが、いまの新人類も誠備と同じことをいってますよ。
カネ余りを背景にしまして、株価メジャーというのはすっぱしちゃってね。
需給関係だけの論理で売買している。
おっかないですね。
だからT化学みたいなしまった。
誠備は投機グループで、相場操作や買い占めなどで暗躍した。
いまは、彼らの投機の論理で、「新人類」つまり企業が株価を操作し、危ない投機の橋を渡っている。
「株価はこれからどこまで上がるか」「株式市場はどうなっていくのか」などという質問には、O業務部長は「わからない」を繰り返した。
常識破りの相場は、「生き字引」の物差もとどかないところに虚像をつくってしまっていた。
昔から「山高ければ谷深し」といった。
株価が上がる相場の「山」が高ければ高いほど、株価下落の谷が深いとされてきた。
だが、その常識も「もう飛び越えちゃってわからない」というのだった。
昔からの相場師の相場観や金言を記した著書は、いまも兜町の書店に並んではいたが、目立たない片隅に追いやられていた。
コンピューターによるシステム売買が行なわれている。
N証券などの会員の証券各社が、全国から集めた売買注文を入力装置に入れれば、東証の中央処理装置に送られ、コンピューター・システムによって売買が成立する。
「企業の新人類」とともにシステム売買も、相手の顔や相場の「診断」をできにくくしていう情報を追ってひろがった。
連鎖反応に輪をかけた。
八七年一○月の「暗黒の月曜日」の大暴落は、アメリガの政府高官や金融当局者の発言をきっかけにはじまった。
その後の為替相場への影響も、アメリカや西ドイツなどの政府高官がどういう発言をしたかとだが、この〈常識の服を脱ぎ捨て〉てしまった株式市場に、今度の大暴落が冷水をかぶせた。
そして、数年来、急激にすすめられてきた「金融の自由化、国際化」の結果が、世界的な連鎖反応を呼び起こした。
「金融の自由化、国際化」の武器として導入されてきたコンピューターとそのネットワークが、その大蔵省証券局長は、かつて七四年一二月二日付で通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」を日本証券業協会会長宛に送った。
だが、その〈投資者本位の営業姿勢〉は、政府・大蔵省が先頭に立って、踏みにじっている感がある。
私がそういうと、「岡田空いるというくらいです」、やはり、「山高ければ谷深し」の格言は生きているようだった。
未踏の高嶺を登りつづけてきた株価は、いまや奈落の谷底に転がり落ちつつある。
だが、N証券は、政府・大蔵省をもまきこんだ大規模な情報操作や株価操作で、また新たなマネー・マジックを使いそうな気配もある。
情報を追ってコンピューター・トバクO業務部長は、「いや、いまは、Nがトップを走ってて、二番手に大蔵が走ってす」といって笑った。
また、さきのW弁談士は、「根本は政府と大蔵省です」とい相場に影響をあたえるような政府高官の発言を事前にキャッチできる、その国家が動く。
マネーの増章見れば、たちまち逃唾かそうとする。
情報とマネーとはからみあい一体となり、ランデブーで宇宙を遊泳している。
東京の市場がしまっても、ロンドンやNなど世界のどこかの市場があいており、世界中の市場と情報をにらんだ一四時間ディーリング(取引)の時代となった。
世界の市場を舞台に、一旦、買った株や債券などが、買い値よりわずかでも上がれば、「買い」から数秒のうちに「売り」にでる。
瞬時に何十億円という値ザヤを稼いでしまう。
コンピューターを駆使して、一瞬のうちにマネーを右から左に動かす電撃戦となった。
マネーゲームというより、もはやコンピューター・トバクとでもいうべきだろう。
いま、日本の金融大企業は、こぞって第三次オンラインによるコンピューター・システムのいっそうの高度化を競っている。
N証券も、第三次オンラインに一○○○億円の巨費を投下し、さらに数百億円を追加投資するといわれている。
金融大企業は、巨大なコンピューターを備えた装溌産業に変貌しつつある。
巨額のマネーがなければ、情報を操縦する装置は手にできない。
だれよりも一歩先んじて、巨利を手にできるにちがいない。
いや、現実に、T化学工業をめぐるインサイダー取引の疑惑ともケタちがいの規模で、それこそ国家的インサイダー取引が、はじまっているのかもしれない。
いまや高度情報社会であり、地球上をあらゆる情報が飛びかっている。
その情報を追って巨額のマネーが動く。
マネーの増殖に有利な情報をキャッチすれば、たちまち世界のマネーが流れ込む。
反対に不利と見れば、たちまち逃げ出してしまう。
一分一秒でも先を制して情報をキャッチし、より有利にマネーを動かそうとする。
「時は金なり」というが、もう一つ「情報は金なり」を加えた時代となった。
マネー戦争高度情報社会の到来とともに、「情報を制するものが世界を制する」などといわれてきた。
世界的な情報網の装置が備えられない金融会社は、淘汰されるか大企業の情報網の傘下に編入されていくしかない。
宇宙衛星を打ち上げられるような巨大企業だけが、マネーと情報を操縦する社会になっていくのだろうN証券が今日のようにダントッになったのは、調査・情報収集の力とコンピューターの駆使だったといわれる。
コンピューター部門は、その計算部が六六年に分離したNコンピュータシステムが担ってきた。
また、調査・情報部門は、六五年に調査部が分離したN総合研究所が担ってきた。
Nコンピュータは、〈最先端のテクノロジーを駆使して、高度情報社会を拓く〉(同社「会社概要」)というスローガンを掲げている。
八五年八月に竣工した日吉センターに、衛星通信システムに対応する最新鋭設備を整え、いくつかの実験を繰り返している。
また、N総研のN社長は〈世界の第一級の総合的受託研究機関〉(同社「会社概要」)をめざすといっている。
また、〈「株式会社」の形態をとっておりますが、単なる営利追求を至上命令とするのではなく〉〈社会的責任を十分に果たしていきたい〉(同)ともいっている。
NコンピュータとN総研の両社は、八八年一月四日に合併。
合併によって誕生する新N総研の社長には、N証券のM副社長が就任。
彼は、合併計画の発表にさいして、〈両社は〔N〕グループの頭脳と神経にあたる〉(社内誌「社友」八七年一○月号)といった。
両社の合併は、T義久社長が口癖の〈地球経済〉に、N証券の〈頭脳と神経〉のネットワークをはりめぐらそうとするものだ。
T社長は、すでに八七年四月からの半期経営方針の説明でも、〈情報化社会の一層の進展〉を背景にした〈地球経済〉について、つぎのようにいっている。
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